ドクターヘリ検討会、中間とりまとめ——「2パイロット運用」は当面の臨時対応と位置づけられた

ドクターヘリ検討会、中間とりまとめ——「2パイロット運用」は当面の臨時対応と位置づけられた

7月に国が設置した検討会の続報だ。

2026年9月17日、厚生労働省「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」の第3回が開かれ、中間とりまとめ(案)が大筋で了承された。

このシリーズでずっと追ってきた整備士不足と2パイロット制が、国の文書としてどう整理されたのか。公表された資料を読んだ。

先に要点を書く。2パイロット運用は「臨時的に必要と認められる間の当面の対応」と明記され、標準的な運用とすることには慎重意見が付いた。


いまの数字 #

まず現況から。中間とりまとめに書かれている数字だ。

項目値
導入済み令和4年度に京都府を除く全都道府県で実現
現在の運航令和8年9月時点で東京都・大阪府・徳島県を除く43道府県、55機が委託により通年運航
年間受諾件数28,405件(令和6年度)
── 救急現場への出動17,242回
── 施設間搬送4,259回
── 途中キャンセル6,905回
1機当たり年間平均出動回数483回(集計対象57機)
1機当たり年間平均出動時間214時間4分

1機で年間214時間。これは運航する側から見ると、決して多い数字ではない。だが後で見るように、この「多くない飛行時間」のために、機体・操縦士・整備士・CSを24時間365日ぶん用意しておかなければならないというのが、この事業の構造そのものだ。

2パイロット運用は、どう位置づけられたか #

根拠は令和8年3月の事務連絡 #

兵庫県の記事で「厚労省が2026年3月に臨時措置として容認していた仕組み」と書いたが、その中身が中間とりまとめに明記された。令和8年3月の事務連絡で示されたのは、次の2つだ。

  1. 都道府県等が必要と認める場合には、当面の間、予備機が確保されていない運航事業者への委託を行うこと
  2. 臨時的に必要と認める間、関係法令・運航規程・整備規程との適合、安全な運航の確保に十分留意した上で、整備士に代えて所要の訓練等を受けた操縦士を同乗させることは差し支えない(=「2パイロット運用」)

予備機なしでも委託していい、という1つ目も相当に重い緩和だ。

「当面の対応」であって、標準ではない #

中間とりまとめの書きぶりは、かなり慎重だ。

2パイロット運用は、臨時的に必要と認められる間の当面の対応であり、現時点で標準的な運用とすることについては慎重な意見があった。一方、将来の運航体制の選択肢としての取扱いについては、今後の運用実績や安全確保上の課題等を把握し、引き続き議論すべきとの意見があった。

「閉じてはいないが、開いてもいない」という位置づけになった。中長期的な方向性のほうにも、こう書かれている。

2パイロット運用を含む運航体制のあり方については、当面の運用実績、安全上の事案、現場の医療クルー及び運航クルーの意見等を把握し、安全性の検証を前提として、中長期的な取扱いを引き続き議論する。

「現場の運航クルーの意見」を把握対象に入れているのは、実務側としては素直にありがたい。

整備士がいないと、何が起きるか #

この部分が、いちばん具体的だった。

整備士が同乗していない場合には、基地病院以外の場所で機体に不具合が生じた際、その場で必要な基準適合性の確認を行い、運航を継続できない場合がある。このため、特に離島や遠隔地においては、近隣のドクターヘリその他の代替搬送手段を活用した搬送体制をあらかじめ確保しておくことが重要である。

整備士同乗の記事で書いた「機内での役割」の話が、そのまま国の文書に落ちた形だ。出先で止まったら、そこで終わる。だから離島・遠隔地では、あらかじめ代替手段を確保しておけ、という整理になっている。

2パイロット運用を行う場合に確保すべきものも、列挙された。

  • 整備士が担ってきた役割のうち、操縦士が代替し得る業務と、引き続き整備士が担うべき業務の整理
  • 必要な教育・訓練、実務評価
  • 飛行前後点検及び飛行間点検の実施体制
  • 不具合発生時の連絡・対応体制

なぜ事業者が手を挙げないのか——3つのリードタイム #

今回の資料でいちばん腑に落ちたのが、ここだ。運航事業者が受託をためらう理由が、時間の数字で書かれている。

項目必要な期間
機体の発注から納入まで3年程度
機体の型式に応じた操縦士・整備士の養成年単位
一方、運航事業者の選定は運航開始の前年度に行われる場合がある

受託できるか不確定な段階で機体や人材を確保する必要があり、運航事業者にとって大きな事業リスクとなるとの意見があった。

3年かかるものを、1年前に決める入札で取りに行く。外れたら、機体と人が宙に浮く。これでは手を挙げにくい。

さらに機体の側でも、

  • ドクターヘリの機体価格は、開発費や材料費の上昇等により近年大きく上昇
  • 運航に要する経費と補助基準額に差があるとの指摘
  • 使用されている機体のうち、機齢20年以上が約2割。今後順次、更新の時期を迎える

「代替機」と「予備機」は別物だという整理 #

これも実務的に重要な区別だ。

用途確保のしやすさ
代替機耐空検査等の計画的な整備時に用いる一定の見通しをもって準備できる
予備機突発的な機体の不具合に備える常時確保は、実際の利用頻度に比して相当な費用を要し、事業者に大きな負担

中間とりまとめは、この2つを区別した上で、それぞれの確保に関する考え方を整理する必要があるとしている。ひとくくりに「予備機を持て」と言われると成り立たない、という現場の声が通った形だ。

だから「選定指針の見直し」が短期の柱になった #

短期的な方向性として、こう書かれている。

都道府県等と運航事業者との委託契約については、これまでの調査研究の成果等を踏まえ、運航事業者の選定や委託契約に当たって留意すべき事項を国において整理し、都道府県等が参照できる形で示す。

選定にあたって確認すべき事項として挙がっているのは、価格に加えて、

  • 安全確保の具体的な取組
  • 運航・整備体制の継続性
  • 操縦士・整備士等の人材確保計画
  • 機体の確保計画
  • 運航継続に支障が生じるおそれがある場合の報告・情報共有体制
  • 内部統制の整備状況、関係機関との連携体制

「価格だけで選ぶな」ということが、正面から書かれた。都道府県と運航事業者の間には「航空機の運航・整備に関する専門知識や保有する情報に差がある」とも明記されている。

「消防防災ヘリで補完すればいい」の限界 #

第3回では、茨城県が防災ヘリによるドクターヘリ補完的運航の実例を報告している。これが率直で、数字がよかった。

時間のロス

要請後、防災航空室基地から担当病院(医療スタッフ提供病院)へ向かい、ヘリで医師・看護師をピックアップした上で現場へ向かう。このため、基地病院から直接出動するドクターヘリに比べ、現場到着までに8分程時間を要する。

医師が最初から乗っていないぶん、まず病院に寄る。当たり前だが、これが8分になる。

飛行時間の上限

年間飛行時間の上限補完的運航に充てられる量
補完的運航の開始当時300時間年間20時間程度(搬送30件程度)
令和5年度の機体更新後400時間年間80時間程度(搬送120件程度)

旧機は300時間を超えると、通常の耐空検査(約3か月)とは別に約1か月の検査が必要になるため、上限を300時間としていたという。

そもそも防災ヘリ自体が飛べない日がある

予備機を確保していないため、年1回の耐空検査で約3か月の運休が生じる。各年度の運航不能日数がこれだ。

年度日数主な理由
R2120日耐空検査
R3105日耐空検査
R499日耐空検査
R573日機体修繕
R699日耐空検査
R7121日耐空検査

年間100日前後、防災ヘリは飛べない。「ドクターヘリが止まったら防災ヘリで」という話は、この数字を見てから始める必要がある。

中間とりまとめも、消防防災ヘリは救助・消火・情報収集等の多様な任務を担っており、「ドクターヘリを一律に代替するものではない」と明記している。

人材——航空大学校のヘリコースが、国の施策として書き込まれた #

ここは、飛ぶ側にとっていちばん直接の話だ。

操縦士については、ドクターヘリの機長として必要な経験を得るまでに一定の期間と費用を要する一方、農薬散布等の減少により、飛行経験を積む機会が減少している。

農薬散布の減少が、ドクターヘリの機長不足につながっている。この因果が国の文書に書かれたのは、なかなかない。日本のヘリ操縦士がどこで飛行時間を積んできたか、という産業構造そのものの話だ。

そのうえで、国土交通省側の施策としてこう挙げられている。

  • 航空大学校におけるヘリコプター操縦士養成コースの創設に向けた準備
  • シミュレータの活用
  • 奨学金制度
  • 自衛隊で整備業務に従事した人材の民間での活用

航空大学校のヘリコースは、厚労省側の文書からも名指しで期待されている、ということになる。

定着の話も出ている。

ドクターヘリの従事者については、出動待機時間に加え、待機時間の前後に機体の点検等を行うことにより、勤務時間が長くなる場合があるとの指摘がある。

年間214時間の飛行のために、どれだけの拘束時間があるか。ここに触れているのは正直な記述だと思う。

各国はどうしているのか——機体を誰が持ち、誰が飛ばすか #

日本航空医療学会(猪口貞樹理事長)の資料が、各国のHEMS運用体制を5類型に整理していた。機体の保有者と運航者の組み合わせで切る見方だ。

類型機体の保有者機体の運航者備考
A公的公的大きな設備投資と専門人材が必要。大規模運用は困難
B公的民間営利受託者の初期投資が下がり参入障壁が低下。責任の所在・ロックイン効果が課題
C民間非営利民間非営利規模の経済は得られるが効率性は営利に劣る
D民間営利民間営利現在のHEMSの主流。契約更新に伴うトラブル、経営リスクが課題
E民間非営利民間非営利英国のトラスト方式。寄付が潤沢なら経済効率を超えた運用が可能

日本はDだ。そして中間とりまとめが「一部の地方自治体では、自ら機体を保有し、運航・維持管理を民間の運航事業者に委託する取組が進められている」と書いているのは、Bへの部分的な移行を指している。

ただし、そこにも留保が付いた。

各地方自治体が個別に機体を保有することにより、全国的には非効率となる可能性、広域連携や共同運航に係る調整を複雑化させる可能性がある。

さらに、機種によって運航可能な事業者が限定される可能性があるため、公的に保有する機体の選定は価格だけで決めるな、とも書かれている。これは運航の現実をよく分かっている指摘だ。

欧州の拠点数も参考になる。

国人口拠点数(概数)主な財源
ドイツ約8,450万人約90拠点公的医療保険
フランス約6,800万人約40〜45拠点公的国民保険
スウェーデン約1,050万人10拠点地方税
フィンランド約560万人7拠点国家予算

出動要請の「効率」を、どう測るか #

同じ資料に、令和6年度の要請データの内訳があった。

段階件数割合
出動要請37,134件—
── 要請不応需8,729件23.5%
── 要請受諾28,405件76.5%
──── 任務中止6,905件受諾の24.3%
──── 診療人数21,873人受諾の77.0%

要請の4分の1近くが応需できていない。その内訳がこれだ。

不応需の原因割合
天候不良10.7%
重複要請7.5%
その他4.1%
時間外要請1.1%

天候不良と「その他」は増加傾向とされている。飛ぶ側からすると、10.7%という数字は「妥当なところだろう」という感覚に近い。逆に言えば、天候で断る1割は、機体を増やしても人を増やしても減らない。

もうひとつ、要請方式のトレードオフが数字で示されていた。

医療介入までの時間任務中止率
覚知要請(119番の内容等で要請。全要請の35.4%)7〜8分早い30.8%
救急隊現着後要請遅い18.3%

早く呼べば早く着くが、空振りが増える。中間とりまとめは、オーバートリアージを抑えることだけを目的にせず、アンダートリアージにも留意せよとしている。

お金——令和9年度概算要求は約135億円 #

7月の記事で「令和9年度予算で増額へ」と書いた件が、数字になった。

厚生労働省の令和9年度概算要求の要望一覧に、ドクターヘリ導入促進事業 13,499,316千円(約135.0億円)が計上されている。令和8年度当初予算の約100億円からの増額要求だ。

まとめ #

  • 2026年9月17日、厚労省「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」第3回で中間とりまとめ(案)が大筋了承。
  • 2パイロット運用は「臨時的に必要と認められる間の当面の対応」。標準的な運用とすることには慎重な意見が付き、将来の選択肢としては「安全性の検証を前提に」議論継続。根拠は令和8年3月の事務連絡(①予備機なし事業者への委託可 ②整備士に代えて訓練を受けた操縦士)。
  • 整備士不在時のリスクが明記された。基地病院以外で不具合が生じると、その場で基準適合性を確認できず運航を継続できない場合がある。離島・遠隔地は代替搬送手段を事前確保せよ、と。
  • 現況は43道府県55機(東京・大阪・徳島を除く)。令和6年度の受諾28,405件、1機当たり年間483回・214時間4分。
  • 事業者が手を挙げにくい理由が時間で示された。機体の納入まで3年、型式の養成に年単位、なのに選定は運航開始の前年度。機齢20年以上が約2割。
  • 「代替機」(計画的整備用)と「予備機」(突発不具合用)を区別して考え方を整理する方針。
  • 短期の柱は運航事業者の選定・委託契約で留意すべき事項を国が整理して示すこと。価格だけでなく、安全確保の取組・人材確保計画・機体確保計画・報告体制を確認せよ、と明記。
  • 茨城県の報告で、消防防災ヘリによる補完の限界が数字に。医師をピックアップするため現場到着が8分遅い/飛行時間上限(300h→更新後400h)で補完は年20h→80h程度/予備機がないため年間100日前後の運航不能。
  • 人材では、農薬散布等の減少により飛行経験を積む機会が減っていると明記。航空大学校のヘリコプター操縦士養成コース、シミュレータ、奨学金、自衛隊整備士の民間活用が施策として挙がった。
  • 各国HEMSは機体の保有者と運航者の組合せで5類型。日本はD(民間営利が保有・運航)。自治体の機体保有はBにあたるが、個別に進めると全国的な非効率・広域連携の阻害になり得ると留保。
  • 要請37,134件のうち不応需が23.5%。内訳は天候不良10.7%/重複要請7.5%/その他4.1%/時間外1.1%。覚知要請は7〜8分早いが任務中止率30.8%(現着後は18.3%)。
  • 令和9年度概算要求は約135.0億円(令和8年度当初約100億円から)。

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本記事は、厚生労働省「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」第3回(2026年9月17日)の公表資料に基づく。中間とりまとめは「案」の段階であり、最終的な文言は変わる可能性がある。最新の内容は厚生労働省の公表資料で確認してほしい。

ヒーロー画像はイメージ(神奈川県伊勢原市・東海大学医学部付属病院のドクターヘリ)。同院は、平成11年度に川崎医科大学附属病院とともに日本のドクターヘリ試行的事業が始まった拠点である。“Doctor Heli at Tokai University Hospital” by Mzaki / Wikimedia Commons / CC0(本記事への掲載にあたりリサイズを行った)


出典

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