通信混雑で「最後のフィックス」に着いてしまったら——AIM-J 614項の「待機してはならない」とAIPの「待機を開始する」は矛盾しない
2026年10月17日のATSシンポジウムで、「通信混雑時の飛行方法(AIM-J 614項関連)」という研究発表がありました。
テーマは、IFRで飛んでいて、その先の指示をもらえないまま承認経路の最後のフィックスに着いてしまったら、どう飛ぶかです。
AIM-Jには「指示なくホールディングを行ってはならない」とあり、AIPには「待機を開始する」とあります。一見、正反対です。発表の結論は、この2つは想定している場面がまったく違うので矛盾していない、というものでした。
発端——読者からの質問 #
発表のきっかけは、AIM-Jの読者から寄せられた質問です。2つの記述を並べると、こうなります。
| 資料 | 書いてあること |
|---|---|
| AIP ENR 1.5-1.5.1 | 管制承認限界点、進入フィックス以遠への管制承認……管制承認または待機指示を受理する前に当該地点に到達したときは、通信機故障の場合を除き、当該地点において維持してきた高度を維持し、公示の待機経路で待機を開始すると同時に、速やかにその後の指示を管制機関に要求しなければならない |
| AIM-J 614項 | 通信の混雑等のために確認ができないまま最後のフィックスに至った場合は、最新の情報によって使用されていると思われる計器進入方式に繋がるSTARの経路によって進入開始点への飛行を継続する。 注)STARの開始点から先の経路が示されなかった場合でも、STARの開始点で指示なくホールディングを行ってはならない |
「AIM-Jの『ホールディングを行ってはならない』は、AIPの『待機を開始する』に反するのではないか」という質問です。
AIM-Jにこの注が入った理由——2001年ごろの羽田 #
AIM-J 614項の注が入ったのは、2002年前期版です。背景には、実際に起きた危険な事案がありました。
- 2001年ごろ、通信混雑のため、STARの承認もvector to finalの指示も受けられないまま、飛行計画の最後のフィックス(STARの開始点)に着いてしまうケースが頻発していた
- 羽田への到着機が、最後のフィックスから先の飛び方を受けられないままSTARの開始点に着き、「そこから先は承認されていない」と判断して、許可なく自主的にホールディングを始めた
- その結果、後続の到着機との管制間隔がなくなり、空中衝突になりかねない非常に危険な事態になった
同じ経路に到着機が連なっているところで、1機だけが黙って待機経路に入ると、後ろから来る機体がそこに突っ込んでいく形になります。
2つの記述が想定している場面の違い #
①「管制承認限界点」の意味が変わった #
かつては、目的地が同じACCの空域内なら、飛行場周辺の進入フィックス(NDBやVORなど)が管制承認限界点でした。空域外なら目的飛行場を限界点として出発し、目的地側のセクターに入ってから進入フィックスに変更する、という運用です。
それが1986年の改正で、管制方式基準の管制承認限界点は次のようになりました。
管制承認限界点は、目的飛行場とする。ただし、待機が予想される場合、その他の管制上必要な場合には、フィックスとすることができる。
今では、「CLEARED TO〔空港〕」がほぼ原則です。
② AIPの記述が実際に当てはまるのは「進入フィックスに着いた場合」 #
AIPは「管制承認限界点」または「進入フィックス」に着いた場合のことを書いています。
ただ、管制承認限界点はほとんどの場合目的飛行場です。そこで待機することはありません(すでに着陸しています)。AIPに残っている「管制承認限界点」の記述は、今では非常にまれになった「CLEARED TO〔フィックス〕」の承認のためのものです。
つまり、AIPの記述で通常当てはまるのは、「進入フィックス」に着いた場合です。
③ AIM-Jが扱っているのは、AIPに書かれていない場面 #
AIM-J 614項の注が想定しているのは、次の場面です。
- 管制承認限界点は目的飛行場
- 承認経路の最後のフィックス(多くは飛行場の手前、飛行計画経路の最後の地点)に着いた
- そのフィックスは計器進入方式に直接つながっていない、STARの開始点
- 通信混雑で、その先の指示が得られない
この場面について、AIPは何も定めていません。その空白を埋めているのがAIM-J 614項の注だ、というのが発表の整理です。
では、どう飛ぶのが望ましいか #
発表は、最後のフィックスがどういう地点かで2つに分けています。
① 最後のフィックスから計器進入を始められる場合(例:大分 RJFO) #
AIP ENR 1.5-1.5.1のとおり、待機を始めるべきです。
② 最後のフィックスから計器進入を始められない場合(例:羽田 RJTT) #
STARが設定されていて、しかも通信混雑でその先の通信ができないような飛行場では、多くの到着機が同じ経路を使って入ってきます。
そこで、通報もなしに、また通信途絶のときのようにトランスポンダーで7600を出すこともなく待機経路に入ると、後続の到着機との管制間隔がなくなりかねません。
だから、知り得た最新の情報をもとに、このあと受け取る可能性が最も高い経路(STAR)を飛ぶのが次善の策で、AIM-J 614項の注の書き方は妥当だ、とされています。
出発時に目的飛行場までの管制承認を受けている以上、STARを飛び続けても計器飛行方式の定義から外れることはない、という整理です。
なぜ①と②で逆になるのか #
①は「待機を始める」、②は「待機してはならない」。逆の決まりに見えますが、発表は根本的な違いを2つ挙げています。
| ① 進入フィックス | ② STARの開始点 | |
|---|---|---|
| 先へ進むと | 計器進入を始めることになり、高度を変える必要がある | 高度を変えずにSTARを飛べる |
| 到着機どうしの間隔 | 垂直間隔(高度差)が設定されていることが多い | レーダー間隔が設定されていることが多い |
①では、勝手に先へ進んで降下を始めるほうが危険です。高度差で分けられているので、その場で待機すれば間隔は保たれます。
②では逆です。前後の機体は水平方向の距離で分けられているので、1機が止まる(待機に入る)と、後ろの機体との距離がたちまち詰まります。
結論——AIM-J 614項の注は今も必要 #
発表の結論は次のとおりです。
- AIM-J 614項の注とAIP ENR 1.5-1.5.1は、想定している状況がまったく異なる
- 614項の注は、今も規範として必要
- したがって、現状、記述を改訂する必要はない
なお、AIM-J自体は法令や公示の系列には入っていない資料です(AIM-Jは根拠にならない、と言われるのはなぜかで書きました)。今回の注も、AIPが定めていない場面について、実際の事案を踏まえて望ましい飛び方を示したもの、と理解するのがよさそうです。
参考——進入を始めるまでの飛び方は5つある #
資料の後半では、614項の変遷も紹介されています。2002年前期版で新設され、2014年前期版で表現が一部変わり、2015年前期版で管制方式基準の改正にあわせて整理されました。
2015年の改正では、予定される計器進入方式が分かれば、その進入方式を始めるフィックス(IAF、イニシャルアプローチセグメント上のフィックス、IF)を承認経路上のフィックスとして扱えることになりました。これにより、ACCからも進入開始フィックスへの直行を指示できるようになっています。
現在のAIM-J 614項では、進入を始めるまでの飛び方として次の5つが挙げられています。
| 飛び方 | AIM-Jの項 | |
|---|---|---|
| ⅰ | 計器進入を始めるフィックスへの直行指示 | 656 |
| ⅱ | STARによる経路の指定 | 611 |
| ⅲ | 最終進入コースへのレーダー誘導(vector to final) | 622 |
| ⅳ | 計器進入を始めるフィックスへのレーダー誘導 | 621 |
| ⅴ | 視認進入のためのレーダー誘導 | 622 |
このうち、ⅰだけは「予定される計器進入方式の確認」が必要です。管制官が進入方式を通報するか、パイロットが進入方式を含む最新のATISのコードを通報したときに、そのフィックスが承認経路上のフィックスとして扱われます。
資料では、AIP ENR 1.6-1.4に図で示されている最大会合角(直行の際の角度の上限で、進入開始フィックスから次のフィックスまでの距離に応じて30°〜90°)についても、パイロットが直行経路を決めるための規定ではなく、管制官が直行を指示するときに航空機がその範囲にいなければならないという規定だ、と解説されています。
飛ぶ側として押さえておくこと #
- ATISで、使われている計器進入方式を早めに押さえる——どのSTARにつながるかが決まり、指示がなくても飛ぶ経路の見当がつく
- 最後のフィックスが近づいても指示がなければ、着く前に確認する——AIM-J 614項も「確認する必要がある」と書いている
- それでも通信混雑で確認できないまま着いたら、最後のフィックスが進入フィックスか、STARの開始点かを見分ける
- 進入フィックスなら、AIPどおり高度を維持して公示の待機経路で待機し、指示を求める
- STARの開始点なら、指示なく待機に入らず、最新の情報から最も可能性の高いSTARで飛び続ける
- 通信機が故障した場合は別の手順です(IFRで通信機が故障したら)。今回の話は、あくまで「通信機は生きているが、混雑で指示が取れない」場合です。
まとめ #
- AIM-J 614項の注は、通信混雑で指示がないままSTARの開始点に着いても「指示なくホールディングを行ってはならない」とする。AIP ENR 1.5-1.5.1は承認限界点や進入フィックスに着いたら「待機を開始する」とする。
- 注が入ったのは2002年前期版。2001年ごろの羽田で、到着機が許可なく自主的に待機を始め、後続機との間隔がなくなる危険な事案があった。
- 1986年の改正で管制承認限界点は原則目的飛行場になり、AIPの記述が実際に当てはまるのは進入フィックスに着いた場合。AIM-Jは、AIPが定めていない「最後のフィックスがSTARの開始点」の場面を補っている。
- 最後のフィックスが進入フィックス(例:RJFO)なら待機、STARの開始点(例:RJTT)なら最も可能性の高いSTARを飛び続ける。違いの理由は、高度変更の有無と、垂直間隔かレーダー間隔か。
- 発表の結論は、2つは想定する状況が異なり、614項の注は今も必要で改訂は不要。
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出典 #
- 研究発表「通信混雑時の飛行方法(AIM-J 614項関連)」(2026年度ATSシンポジウム資料)——AIP ENR 1.5-1.5.1およびAIM-J 614項の引用、管制方式基準(Ⅱ)-1-(3)の引用、AIM-J 614項の改正の変遷を含む
- NPO法人エイアイエム・ジャパン編纂協会「AIM-Japan Editors’ Note」(AIM-Japan創刊40周年記念)
本記事は2026年10月18日時点の情報に基づき、シンポジウムの研究発表資料の内容を筆者が整理したものです。実際の運航は、AIPと管制機関の指示に従ってください。
ヒーロー画像:「Haneda Airport control tower」by Takayuki Suzuki(Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0)。羽田空港の管制塔と離陸機。掲載にあたりリサイズを行いました。
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