航空法第96条の改正——管制指示の場所に「着陸帯・誘導路」、中身に「地上走行」を明記。エプロンは対象外に【令和7年12月1日施行】

航空法第96条の改正——管制指示の場所に「着陸帯・誘導路」、中身に「地上走行」を明記。エプロンは対象外に【令和7年12月1日施行】

2026年10月17日のATSシンポジウムで、国土交通省航空局 交通管制部管制課が「管制方式基準の改正」について講演しました。その資料の前半が、航空法第96条の改正の解説です。

改正そのものは、羽田空港航空機衝突事故を踏まえた「航空法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第55号、2025年6月6日公布)によるもので、2025年12月1日から施行されています。

ひとことで言うと、「地上を走る航空機も管制指示に従う」ことを、条文にはっきり書いた改正です。


何が変わったのか——新旧の条文 #

第96条第1項は、管制指示に従う義務を定めた条文です。

条文(第1項)
改正前航空機は、航空交通管制区又は航空交通管制圏においては、国土交通大臣が安全かつ円滑な航空交通の確保を考慮して、離陸若しくは着陸の順序、時機若しくは方法又は飛行の方法について与える指示に従つて航行しなければならない。
改正後航空機は、航空交通管制区若しくは航空交通管制圏又は航空交通管制圏に係る空港等の着陸帯若しくは誘導路の区域(次項及び第三項第三号において「着陸帯等」という。)においては、国土交通大臣が安全かつ円滑な航空交通の確保を考慮して、離陸若しくは着陸の順序、時機若しくは方法、飛行の方法又は地上走行の方法について与える指示に従つて航行しなければならない。

変わったのは2か所です。

  1. 場所:管制区・管制圏に加えて、「管制圏に係る空港等の着陸帯若しくは誘導路の区域」(着陸帯等)が加わった
  2. 指示の中身:離着陸の順序・時機・方法、飛行の方法に加えて、「地上走行の方法」が加わった

第2項と第3項も、これに合わせて変わっています。

項改正前改正後
第2項(空港の業務従事者)管制圏の空港等の業務に従事する者は、その業務に関し、国土交通大臣の指示に従わなければならない同じく、着陸帯等において業務を行う場合は、その業務に関し、指示に従わなければならない
第3項第1号(連絡義務)管制圏の空港等からの離陸及びこれに引き続く上昇飛行離陸(そのための地上走行を含む。)及びその離陸に引き続く上昇飛行
第3項第2号管制圏の空港等への着陸及びその着陸のための降下飛行着陸(これに引き続く地上走行を含む。)及びその着陸のための降下飛行
第3項第3号前二号以外の管制圏における航行前二号以外の管制圏又は着陸帯等における航行

出典:e-Gov法令検索 航空法第96条(改正前は2025年11月30日時点、改正後は現行)。太字は筆者。

第3項は、管制指示を受けるために管制機関へ連絡してから航行しなければならない場面を定めた規定です。ここにも「地上走行」が明記されました。

なぜ改正したのか——管制圏は「空域」だから #

航空局の資料は、背景をこう説明しています。

  • 航空交通管制区は、地表または水面から200メートル以上の高さの空域(航空法第2条第12項)
  • 航空交通管制圏は、空港等及びその付近の上空の空域(同第13項)

これまで、誘導路や滑走路を地上走行する航空機も、第96条に基づいて管制指示に従わなければならないと解釈されてきました。ところが、管制区も管制圏も定義は「空域」です。地上の飛行場面が含まれるのかは、条文の上では必ずしも明確ではなかったわけです。

そこで、管制指示に従う場所に飛行場面を、指示の中身に地上走行を追加して明確にした、というのが改正の趣旨です。

範囲を「着陸帯・誘導路」とした根拠として、資料はICAOの国際民間航空条約附属書の考え方を挙げています。地上走行する航空機に対する管制業務の提供範囲は、「航空機の離着陸及び地上移動のために使用される飛行場の区域」とされているからです。

エプロンは、管制指示の対象外であることが明確に #

この改正で、もうひとつはっきりしたことがあります。エプロンは管制指示の権限が及ぶ範囲の外だということです。

資料の図で整理すると、こうなります。

改正前の解釈改正後の解釈
管制圏飛行場面を含む(と解釈)ので、飛行場面にも指示権限がある「空域」であり、飛行場面は含まない
着陸帯・誘導路管制圏に含まれるものとして指示権限あり条文で明記して指示権限あり
エプロン第5管制業務処理規程の注釈で除外条文に規定なし=権限外

これに伴い、管制方式基準(第5管制業務処理規程)からは、「乗客の乗降、貨物の積降し、整備又は停留のために行われるエプロン内の航空機の移動については管制業務の対象ではない」という注3が削除されました。法律でエプロンが範囲外と決まったので、注釈で除外する必要がなくなったということです。

エプロンについて、資料はICAO PANS-ATM(Doc 4444)の定義も引いています。旅客・郵便物・貨物の積卸し、給油、駐機、整備のために航空機を受け入れるよう設定された区域です。

実際の運用は変わるのか——質疑の回答 #

シンポジウム資料には、これまでに寄せられた質問と回答も載っています。

質問回答(要旨)
法改正で、管制官の指示範囲は変わるのか変わらない。指示権限の及ぶ範囲を明確化したもので、管制指示の考え方や実運用に変更はない
エプロン内の航空機の移動は管制業務の対象外になるのか対象外。エプロンが指示権限の範囲外であることが明確になった
プッシュバックやスポットインの指示は今後もできるのか指示範囲自体は改正の前後で変わらない。エプロン内の航空機の取扱いは、必要に応じて空港管理者との間で整理される
エプロン誘導路は誘導路として扱われるのかエプロンの一部として整理されている(エプロン上に設けられた経路のため)
管制方式基準にプッシュバックやエプロン誘導路の定義を設けるか予定はない。エプロン内の扱いは空港ごとの運用整理による

つまり、管制官から見た日々の運用は変わらず、法律上の根拠と境界線がはっきりした、という整理です。

ヘリコプターについて #

ヘリを飛ばす立場で気になったのは、資料の次の記述です。

飛行場面における管制指示は、主に着陸帯又は誘導路を地上走行している航空機に対して行っているが、着陸帯又は誘導路以外の区域を離着陸及び地上走行するヘリコプターに対しても行っている

そのうえで、資料は着陸帯・誘導路以外の区域について、「本来航空機が離着陸する区域ではなく、航空交通が輻輳している状況にないことから、管制指示がなくとも運用が可能と整理する」としています。

ただし同じ資料で、「飛行場面における管制指示の考え方に変更はない」とも書かれています。

ここからは筆者の読み方です。

  • 第96条で新たに条文上の根拠ができたのは、着陸帯・誘導路での「地上走行」です。
  • エプロンなど、それ以外の区域での地上走行には、第96条の指示権限は及びません。
  • 一方、ヘリが離着陸やホバリングで空中にいる間は、管制圏という「空域」の中の飛行です。そこは改正前から変わらず、飛行の方法についての指示の対象になると考えられます。

実際にエプロン上のヘリパッドなどでどう扱うかは、空港ごとの運用整理によるとされています。

シンポジウムの質疑では「これまでどおり」 #

10月17日のシンポジウム当日の質疑では、エプロン内でのホバリングなどは、これまでどおりの手順でよいという趣旨の回答がありました(筆者の聴講メモによる。正式な回答の記録ではありません)。

上に書いたように、航空局も「管制指示の考え方や実運用に変更はない」と説明しています。今回の改正は、地上走行への指示の法的な根拠と範囲を条文で明確にしたもので、ヘリの飛び方や管制とのやり取りを変えるものではありません。

ヘリのパイロットとしては、難しく考える必要はないと言ってよさそうです。これまでどおり管制の指示に従い、その空港の手順で運用すれば問題ありません。

同じ講演のもうひとつの改正 #

講演の後半は、2026年3月19日に適用された滑走路占有監視支援機能の規定の新設でした。注意喚起に加えて「警報」(GO AROUND/STOP IMMEDIATELY/RUNWAY INCURSION)が定義され、管制官の措置が定められています。資料には、警報機能は2026年7月時点で導入に向けた評価・調整中と書かれています。

こちらは以前、滑走路占有監視支援機能に「警報」が追加の記事でまとめています。

まとめ #

  • 航空法第96条は、羽田事故を踏まえた航空法等の一部を改正する法律(令和7年法律第55号)で改正され、2025年12月1日に施行された。
  • 管制指示に従う場所に「管制圏に係る空港等の着陸帯若しくは誘導路の区域」(着陸帯等)が、指示の中身に「地上走行の方法」が加わった。第3項の連絡義務にも「地上走行を含む」と明記された。
  • 理由は、管制区も管制圏も「空域」で、地上の飛行場面が含まれるのか条文上は明確でなかったため。範囲はICAO附属書の考え方に沿って着陸帯・誘導路とした。
  • エプロンは管制指示の権限外であることが明確になり、管制方式基準のエプロン除外の注釈(注3)は削除された。エプロン誘導路もエプロンの一部。
  • 航空局は、管制指示の考え方や実運用に変更はないと説明している。エプロン内の扱いは空港管理者との間で整理される。
  • ヘリについては、着陸帯・誘導路以外の区域は「管制指示がなくとも運用が可能」と整理された。シンポジウムの質疑では、エプロン内でのホバリングなどはこれまでどおりの手順でよいという趣旨の回答があり、難しく考える必要はない。

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出典 #

本記事は2026年10月17日時点の情報に基づきます。ヘリコプターの扱いについての「筆者の読み方」は、資料と条文から筆者が整理したもので、航空局の公式な解釈ではありません。シンポジウムの質疑の内容は筆者の聴講メモによるものです。

ヒーロー画像:「Airplane on the bridge, Haneda airport - Sep 11, 2010」by Atsushi Kase(Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0)。羽田空港の誘導路を地上走行する航空機。掲載にあたり切り抜きとリサイズを行いました。

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